cherry's kiss



いっぱい貰ってしまったので、おすそ分けです。

はい、と渡された包みの中は今が旬なんですとアピールするかの如く、紅く熟れた小さな果実
がいっぱい。裕に二人分はありそうなその量に飛鳥は当然驚いて。
だが。
何故そんなものをとか、何故それを自分にと問う時間すら与えてくれないで、遠ざかって行く
その後姿。更に視線を奥へと巡らせると腕組みをして怒鳴っている髪の長い少女が見えた。
二人の影を何となく見つめていた飛鳥だったがとりあえずといった様子でとぼとぼと歩き出す。



「・・・・・・」

どうしようかな。

悩んで考えていた小さな頭はやがてゆっくりと持ち上げられて。
「好き・・・かな。食べるかな、これ」
一緒に食べたい人の名を呟いた飛鳥は。その彼がいるであろう寮への道を急いだ。


「・・・ふうん?」
親指と人差し指で目の高さに持ち上げ、持て余すようにころころと転がした彼の開口一番の台
詞。想像どおりの反応に飛鳥は思わず苦笑を漏らした。
京羅樹崇志は普段ツンツンに尖らせた金色の髪と薄色のサングラスと大ぶりなアクセサリー
をこれでもかとつけている。それの御蔭で怖さは二割増しとなっている彼だが自室にいる時の
スタイルは全く違う。硬いと思われていたのはワックスでがちがちに固めているからで、実は
結構柔らかめのそれは何もつけていないからサラサラだし、今日のアクセサリーはピアスが
一つと左手の小指に指輪を一つだけ。どちらも彼にしては珍しいシンプルなデザイン。そして
何より決定的に違和感を感じるのはサングラスではなくノンフレームの眼鏡を掛けているとこ
ろだ。「触ったら切れそう」というよりは、柔らかく理知的なイメージを見る者に与える。
尤も、そんなリラックス全開モードな彼を見ることができるのは特定の人物に限られている訳
だが。



「さくらんぼ、ねぇ」
ぽいっと口に入れてあむあむと食べること数秒。
掌に吐き出した種と茎に飛鳥の視線が留まった。
何かを見つけて驚いた表情。崇志はそれを見てふふん、と鼻で笑った。
「これ?そう、俺出来るんだよ。器用デショ?」
感嘆の溜息をそっと吐き出しうんと頷いた飛鳥はふと以前誰かが言っていた言葉を思い出す。
確か・・・
その瞬間彼の頬にさぁ、と紅い色が走った。
「お?」
「・・・・・・!」
「どうしたの飛鳥ちゃん」
「・・・・・・」
顔の赤い理由が分かってしまった崇志は、んふふと妙な笑い声を上げるとぎゅうっと飛鳥に
抱きついて。
「わっっ!」
「なーに考えてたの・・・えっち」
「えっ・・・ちって・・・おまっ・・・俺は!そんなんじゃ・・・」
「ふーん?」
振り向いてぱくぱくする口にはい、と放り込んだ二粒で一つの甘い果実。
当然そこにお得意の甘い囁きを付け加えることを彼が忘れるはずもない。

「何回か練習すると上手くなるよ、なんなら教えてやるけど?」

まぁ。
つまりはね。
何を云いたいかと申しますと。

「お前の場合それだけじゃ気がすまないだろ」
「あはは、分かってんジャン。もっかいやって見せてあげようか?」

そういうなり崇志はあっけに取られている飛鳥の横で。
高く放り投げた果実をぱくんと上手に口でキャッチして、再びそれをやってみせる。

「ほら」

ちゃんと綺麗に結び目がついている茎をあーんと取り出して、そして彼は笑った。

「こうみえても努力家なんデスヨ?オレッちは」
「何の努力だよ」
「んー?芸は身を助くっていうじゃん」
「役に立ってるのか?それは」

オフコース。

ぽいと投げられた茎を追いかける飛鳥の視線。その身体をやんわりと包み込む汗ばんだ掌。
決して不快ではないと思う自分自身に、またそんな風にされれば自分が抵抗できない事をち
ゃんとこの男は見抜いているのだろうと思うと少々悔しい気もしたが。
結局その心地よさに負けて素直に腕に頭を預けるとよしよしと撫でられた。

「だって伊波ちゃんキスした後、とっても可愛い顔するんだよ?そんな表情を引き出せるんだ
もん、オレっちの努力は無駄じゃないってことでしょ?」

ふしゅーと頭から湯気が立ち上ろうかと思うぐらい飛鳥の顔が赤くなる。

「ばっ!」

馬鹿と言いかけた唇がちゅ、という音と共にかき消された。
途端振り上げていた拳は力なくへにゃへにゃと崩れて。

「どんな顔してるかなんて・・・自分じゃわからないよ」

悔し紛れに呟いた飛鳥はせめてもの仕返しとばかりに手にもっていたさくらんぼを全部崇志
の口へと突っ込んだ。

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