満更でも



いつもはとてもおとなしい伊波飛鳥は今日に限って珍しく大声を上げて怒っていた。
「何でやんなきゃいけないんだよっ!伽月、こらっ、やめろって」
「うるっさい、男だったら潔くしなさいよ!約束でしょ!」
「でも嫌なもんは嫌だーっ!」
飛鳥と伽月がやいのやいのやってる側では琴音が腕を組んで困ったね、と足元のアルに話し
掛ける。
「おうじょうぎわ、わるいねぇ。あすかちゃん」
「くぅーん」
「こりゃ琴音っ!部屋には入れるなといっとろうがっ!早うそれを何とかせいっ」
ひいいと情けない声を上げてがたがたぶるぶると震えながら宝蔵院が部屋の隅から怒鳴る。
「ちゃんと足は綺麗に拭いたもん。アルは琴のお友達なんだからいてもいいのっ」
「よくないわっ!」

「紫上からも何とか言ってやってくれないか」
いつも冷静で良識のある彼女なら自分を救ってくれるだろうと思った飛鳥は助けを請うが。
「私も見たいです」
「はぁ?」
「総代なんて嬉々としてやられてましたよ?」
「そうだそうだ、やってみると結構面白いぞ」
「それにあんまりぐだぐだいってるのも男らしくありませんよ、伊波くん」
その言葉にぐっと詰まった飛鳥をここぞとばかりに伽月がじりじりと追い詰めていく。
「ほーら、もうあんたに選択権はないの!おとなしくさっさとこれに着替えなっ」
「飛鳥ならきっと似合うと思うな、俺は」
「私もそう思います」
にっこりと微笑む執行部部長と副部長。
(似合うとか似合わないとかの問題じゃ・・・)
那須乃と若林は出かけている。
宝蔵院はアルにじゃれつかれて岩のように固まってしまい、琴音はそれをきゃはははと大声
で笑いつつ、つんつん体を突っついている。
要するに現時点で彼の味方はこの場に存在していないのだ。
(・・・どうあってもやるしか、ないのか)
飛鳥は観念したようにがっくりと肩を落として、伽月に付き添われながら部室を後にしたのだ
った。

「あー、体を動かすとさっぱりしますわ」
「はい、那須乃さん、お水です」
「ええ・・・あら伊波飛鳥は?」
弓道場で練習を終えて帰ってきた二人は、きょろきょろと一人の男の姿を探す。
するとそこへ。
「聞いたで聞いたで〜、何や伊波が伽月ちゃんとの卓球勝負で負けたんやってなぁ」
「オレッちもちょっと見たくてさ、遊びに来ちゃったよ」
「あたしもあたしもっ!何か面白そうだなーって思ってっ♪」
「・・・・・・」
「わ・・・私はただの付き添いだ」
晃を筆頭に月詠衆もわらわらと集まってくる。
琴音はぺしぺしとまだ気を失っている宝蔵院の顔を叩き起こした後、彼らに笑いかけた。
「あすかちゃん今着替えてるところだよ。もうすぐ来るんじゃないかな・・・」

程無くして廊下が急に騒がしくなった。
彼らが近づいてきているのだと分かって、一同は皆固唾を飲んで声の方向を見守る。
「ほらぁ、やっぱ可愛いじゃん。絶対これなら皆うけるよ」
「うけるために着たんじゃないっ!俺は嫌だ!こんな格好見られるぐらいなら死んだ方がまし
だっ」
「往生際が悪いなぁ・・・とっとと入ん、なっ!おーい、着替え終わったよーん」
じたばたしている飛鳥の背中をどん、と伽月が一押しして。つんのめるようにして部屋に入っ
てきたその姿に彼らの目が釘付けとなった。



何と言うか・・・違和感が全くといって良いほどない・・・のだが・・・



(やーっぱりあすかちゃんかわいいっ)
(わん♪)
(ああ・・・伊波くん、なんて頭のリボンが良く似合って・・・)
(く・・・ちょっと見蕩れてしまったではありませんか。でも、所詮は男性。あんな程度なら私が
着た方が絶対に似合ってますわ!)
(あーん、ダーリン似合い過ぎてるー)
(何故か敗北感を感じる・・・)

以上女性陣の感想。ちなみにこれらは心の中の声なので互いに思っていることは分かって
いない。賛否両論といった感じか。一部には嫉妬を燃やす者もいるようだ。
一方男性陣はというと。

(あははは、やっぱりよく似合うな)
(・・・ほう・・・これはかなり・・・っていかん、いかん、何を考えておるのだわしはっ!)
(やっぱり元がいいと違うねぇ・・・結構イケてんじゃん。お?コウちゃんの目つきが・・・)
(あかん!めっちゃ俺好みやっ・・・ん、何やマコっちゃんが鞄から何か取り出しとる)
(こんなに可憐で素敵な被写体を放っておくのは勿体無い・・・)
(・・・ふん、(だが少し嬉しそう))

全員から手放しで喜ばれていた。

兼ねてから彼を狙っていた崇志はするりと飛鳥の腰に手を回して早くも口説きモードに入って
いるし、それをティッシュで鼻を押さえながら制する晃だって隙あらばと思っている訳で。
常ならそれに納まるのは花壇の花々であるはずのカメラを飛鳥に向けてシャッターを切る若
林だって。微笑の裏で考えている事は皆同じなのだ。

一方の着させられている本人はどんなに反応がよくっても。
こんなスースーした服なんて一分一秒だって早く脱ぎたくってしょうがない。
崇志に肘鉄をかまし、しがみつこうとする晃を上手くすり抜けて、若林のカメラを没収した後。
伽月が手に持っていた着替えを荒々しい動作で奪い取ると、真っ赤な顔で執行部室を出て
いく。


「・・・っ、帰りますっ!」


そして花の蜜に吸い寄せられるミツバチのように、崇志、晃、若林もその後を追った。


数分後。飛鳥は寮の自室で着替えている時に入ってきた人物にそっと本音を打ち明ける。

「あの時何で止めてくれなかったんですかっ!
俺、あんな格好するの・・・貴方の前だけで充
分です!」

すると彼は嬉しそうに笑って飛鳥をぎゅうぅと抱き締めた。


<補足>


相手は誰なんでしょうってこの口調からいって一人しかいませんよね・・・
ってなると、そうか。総代はそういうプレイがs(自己規制)。
総受け気味ですがじつーは何気にアヤナミだっ
たりするのです・・・うふ
ふふふ。
何は兎も角早いものでもう発売1周年ですか・・・改めておめでとうござ
います!