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「・・・あの」
そんなに見つめないでくれませんかとやや不快さを込めた瞳で視線の主に振り返れば戻って
来るは一点の曇りもそこには見出せない、爽やかな笑顔。
「何でさっきから・・・その、俺の事じろじろ見てるんですか」
もうかれこれ十分位は見られているような気がする。人の話を聞いているのだろうかと頬を膨
らませた飛鳥とは対照的に、悠然と椅子の背を正面に両腕を置き顎を乗せて微笑む九条の
格好は、お世辞にも行儀が良いとは云い難い。
恋人同士の甘い時間だと言い切ればそれまでかも知れない。
だが、この部屋にいるのは二人だけではないのだ。
ゆるゆると窓際で作業している背中に視線を移せば、彼女は我関せずと云ったように細い指
を動かし黙々と作業に没頭している。
「結はくれたぞ。手作りかどうかは分からんがな」
そうやって彼がポケットからちらりと見せた包み紙の色は赤いリボンがよく映えるアイボリー。
紫上らしくてセンスがいい色だなと感心しながらやっぱり持ってこなきゃ良かったかなとも思う。
遠くの方では日が暮れたことを知らせる梵鐘が鳴っていた。
今渡そうか、どうしようか。
自分の方を見ていないと分かってはいても気になる彼女の存在が、飛鳥を留まらせている。
そうして何分が過ぎただろうか。
「出来ました」
未だに迷いあぐねていた彼の目の前をすっと通り過ぎる一つの影。
トントン、と四隅を揃えた紙の束を差し出すその様子はどこか気だるげだ。
・・・先の戦いで相当の験力を消費したのだから無理もない。
「お、もうか」
「はい・・・一度目を通して頂いて訂正箇所とか無ければこのまま提出しようかと」
付け足した様に浮かべる笑みも弱々しい。飛鳥は思わず声を掛けずにはいられなかった。
「紫上・・・」
「何ですか?」
「その・・・疲れてそうだからさ・・・あの、あんまり、無理すんなよ」
何か手伝えれば良かったが流石にここが彼には踏み入れられない領域である事は重々承
知の上だ。
だから取ってつけたような労いの言葉しか思い浮かばなかった。
「お気遣い有難うございます」
「あのさ紫上・・・今日誰かに『あれ』渡したの?その・・・お前、本命の人とかっているの?」
さりげなく何か楽しい話題でも振ろうと考えた結果、出たのはそんな言葉で。
しまったこれじゃあ何か誤解されそうだとぐっと唇を噛み締めた飛鳥に紫上はくすりと笑った。
「渡しましたけど・・・いるといったらどうなるんです?もしかして総代じゃないかと思っておいで
ですか?」
「ち・・・ちがっ・・・」
ふふっ。
「安心して下さい。違いますよ。それに、こういっては何ですけど・・・あの方に差し上げたのは
ちょっと出来が悪いんです・・・いわば練習段階のものですね」
「え・・・そう・・・なの?」
「だって、あの方が本当に欲しいと思っているのは飛鳥さんの以外、ありえませんもの」
ぼっ、と頬を赤らめ、慌て出す飛鳥。
「な・・・俺・・・俺のってあの・・・紫上・・・」
「別に彼から聞いた訳ではありません。でも何となくお二人を見ていれば分かりますから」
やがてパラパラと紙を捲っていた手が止まり、九条が顔を上げる。
「問題ないぞ、結」
「はい、では私はこれで・・・」
「ああ、よろしく頼む」
丁寧な仕草で彼から紙束を受け取った紫上は、鞄に手に取りコートとマフラーを腕に掛けると
小さくお辞儀をして執行部室を出て行った。
「あー、もう夕方か・・・」
ぐーんと伸びをしながら九条がぽそりと呟く。飛鳥はきゅっと口を結び、持っていた鞄の蓋を開
けた。
「・・・あの」
「んー?」
凝っているのかぐるぐると首を廻す彼の元へと向かうと、怒った様に持っていた包みを手渡した。
「何だ?」
「・・・分かってるくせに。これを待ってたんじゃないですか?」
「お前が自分から渡してくれるのを待ってたんだ」
「・・・バカですね」
子供のようにはしゃいで受け取る彼に、どうしたって緩む顔を抑えきれなくて。
「ありがとう」
後ろから抱き締められた腕の強さが。
とても、とても嬉しいと思った、二月十四日。
・・・ハッピー・バレンタイン。
<コメント> |
何、これ(笑)
拍手用に上げてたバレンタイン話。総代が微妙に可愛くなってしまうのは
何でだろう(汗)
紫上さんのお相手は聖的には関西弁の彼を希望します。
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