ボクノヒカリ



「はい、それではゆっくりと目を開けて下さい・・・ゆっくりね」
再び光を取り戻したその瞬間飛び込んできたのは、愛しい人の泣き出しそうな笑顔だった。

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「崇志・・・崇志・・・俺だよ・・・見える?」
医者らが去った後、飛鳥が俺におそるおそる、訊ねて来た。
「・・・ああ」
「良かったっ・・・!本当に良かった・・・っ」
俺を見下ろす様に立っている彼が瞼を震わせる度にぽろりぽろりと透き通った大粒の雫が口
元近くに落ちて。舌を出し舐めてみるとそれはほんのりとしょっぱく、苦い。
久し振りに双眸で見た世界は目映くてしょうがなくて。興奮して出した自分の声もどこか掠れ
ていた。
「ははっ。なーんか変なカンジ」
何だか可笑しくなってきて声を立てて笑うと、まだ泣きやまない飛鳥が不思議そうに首を傾げ
る。
「・・・あたっ」
笑っていた俺は鈍い痛みに顔を顰めた。まだ慣れていない所為なのか長い事目を開けてい
られないらしい。何度か瞬きをした。そんな様子を見て彼はベッドに腰掛けている俺の高さに
まで腰を屈めるとおずおずと俺の手に自分の手を重ねてくる。
「平気?」
「ああ」
大丈夫だ、と頷くと飛鳥は良かった、とほっとしたように肩を撫で下ろした。
あーあ、もう。
「でもなぁ。クリアにならない方が良かったかも」
まだ頬を伝い続けている涙を伸ばした指でそっと拭い去ってやりながら言ってやると彼は「何
が?」と問うてきた。
「目だけなら分かるけどさ。鼻も。こんなに赤くしちゃって。こんなに泣き虫だったっけ、お前」
みっともないぜ、その顔。もしかしてぼんやりしてた方が美化されてたのかもな。
そんな事を言ったら鼻だけだった赤は顔全体に広がった。飛鳥は目を吊り上げて俺を容赦な
くばしばしと叩く。
「・・・五月蝿いっ!だったらまた見えなくしてやろうかっ!」
手をピースの形にして目に近づけてきたのが「目潰し」をしようとしているのだと知った瞬間に
俺はその手を強く握り返していた。
「はいはい。俺が悪かったって。ちょっとからかっただけだよ」
「こんな時に冗談を言うなっ・・・俺が・・・俺はっ・・・」
元から生真面目な性格の彼は俺のこういう攻撃にもいちいち反応してくれる。だからこそ止め
られないのだが、如何せん度を過ぎるとこうやって拗ねてしまうという訳だ。
「手を離せ!また見えなくしてやるっ」

・・・どうやら今回も「度を過ぎて」いたようだ。完全に怒っている。

だけど。
笑顔は好きだが、こういう怒った顔もまた堪らなくぞくぞくする。俺がコイツに惚れたのはこの、
静かな、だけど激しく燃え盛る炎を宿した鋭い眼差しだったのかも知れない。
「崇志っ、手ぇ離せってば!」
俺ががっちり押さえ込んでいる所為で動けなくなっている飛鳥が噛み付くように吠えた。
「やーだね」
このっ、このっともがく彼に全ての行動をストップさせるべく、俺は彼を抱き締める。

強く。
「嘘だって、嬉しいんだって。こんなにはっきり伊波ちゃんの顔を見たのは本当に久し振りだ
から」
ふっ、と耳元に軽く息を吹きかけると飛鳥の体がびくん、と震えた。
「・・・やっぱり美人だな、伊波ちゃんは」
「・・・美人って女の人に使う言葉だろ。俺なんかに使っても褒め言葉には聞こえないよ」
そうは言ってもまんざら悪い気はしないらしく、少し口角が上がってきている。よし、あと少し。
「いいだろう?恋人に使う褒め言葉だ。女も男も関係ないさ。少なくともオレっちにはね」
「・・・キザ」
「はーい、それでレディー達にはもててきましたから」
俺がおどけると、飛鳥はまた、と口では文句を言ってはいたがその表情をみるとやっと機嫌を
直してくれたみたいだ。
深い溜息を一つだけついてから彼は、ふふっと小さく笑った。
「・・・でも嬉しいかも。崇志に言われたからかな、変な感じ」
「キザついでにもうひとつ、言いたい言葉があるんだけど」
また企んでいるような笑みを浮かべていたんだろう。晃にも薙にも突っ込まれたその表情を
飛鳥も不安に感じたらしく、首を捻った。
俺はこほん、と小さく咳をして再び彼の耳元に唇を寄せ、その一言を囁いた。するとさっきとは
違った意味で彼の顔は赤く染まっていったのだった。


「・・・好きだ、飛鳥」


俺がもう一度その言葉を口にする前に、彼は恥ずかしいのか顔を俺の肩に押し付けて小さく呟く。
その声は本当に小さかったから実はあんまり聞き取れなかったのだけど、でも何となく分かった。
多分飛鳥はこういったんだ。

「・・・ばか・・・そういう言葉はいつも言って欲しいのに・・・」

・・・甘い、甘い。こういう言葉はたまに言うから重みがあるんだよ。分かるだろ?

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