おぜう様のため息


ドア付近で遊んでいる格闘オタクと、どう見ても小学生にしか見えないおチビをうざったそうに
払いのけて、美沙紀が低く呟いた。
「いつから」
視線の先には嫌がる晃を後ろから羽交い絞めにしている崇志。
その隣にはあろうことか自分が目を掛けてやっていた誠までもが飛鳥を抱き締めて鼻の下を
伸ばしているではないか。彼女のこめかみがひくり、と動いた。
「ここは色ボケ共の集会所になったのですか」
「良いじゃないですか、別に活動に支障が出るわけでもありませんし」
のんびりとした口調で結奈が答える。更にそれがカンに触った美沙紀は耐え切れずに怒鳴り
つける。
「良い訳ないじゃありませんか!紫上、あなたはもっと良識のある人間だと思っていましたわ。
この人たちの顔を御覧なさい!何てだらしの無い!こんなんで討伐など出来る筈が無いでし
ょう!」
指差された飛鳥は忽ちその瞳を曇らせる。晃は「ちゃうって美沙紀ちゃん!ラギーが勝手にや
ってることやからっ」と言いながら京羅樹の指を一本一本引き剥がそうとしている。
「何だよ。昨日の夜はがっちり俺にしがみついて好き好きって何度も言ってくれたじゃん」
「阿呆抜かせ!言わせたのはお前やないか!」
遠まわしにノロケですか。
口には出さなかったがそこにいる誰もが皆そう思っていたに違いなかった。
一方飛鳥の表情が沈んでゆくのを見るに耐えない誠は「大丈夫ですよ」と言ってすっぽりと覆
うようにその体を抱え込み、頭を撫でた。
「若林。私甘いものが食べたくなりましたわ。ちょっと奥津小路に行っていつものやつ買って来
て頂戴」
何とか平静と保とうといつもの如く世話役に声をかけると帰ってきたのは眉間に三角形が出来
るんじゃないかと言うぐらいショッキングな言葉だった。
「嫌です、ご自分でどうぞ」
そういうと誠は腕の中で自分を見上げて首を傾げる飛鳥の頬に、そっと唇を寄せた。
「なっ・・・!!!」
まさか彼の口から拒絶の言葉が出るなんて思いも寄らない美沙紀はあんぐりと口を開けてそ
の場に立ち尽くす。その大きさと言ったらあごが外れそうな勢いだ。
「あははっ、みさみさ面白ーい!まぬけなかおしてるぅ〜!」
「こーら、琴音ってば。係ると厄介なことになるからね、カズキングやったげるからさ。表行こ」
「えぇー。あれやだ。だっさいんだもん」
「お前なぁーそんな偉そうな事抜かすのはこの口かっ、この口かっ」
「ふぎいぃーっ、いひゃいってばやめへよ〜っ」
ぴりりと立ち込める緊張感を払拭したのは矢張り伽月と琴音の二人である。彼女達は互いに
顔を抓り合いながら執行部室を後にした。
そして部屋には結奈、晃、崇志、飛鳥、誠、そして紅蓮の、怒りのオーラを背中にしょった美沙
紀が残ったのだった。
「・・・頭が痛いですわ」
こめかみの辺りをぐりぐりと人差し指で押しながら美沙紀が息をつく。
「那須乃、駄目ですよ。今この人たちには何を言っても聞きやしません。こういうの何ていうか
ご存知ですか?」
「は?」
「『バカップル』って言うんですって」
うふふ、と口元を押さえて笑う結奈に恐怖にも似た感情を抱きながら美沙紀が再び4人を見る
と。
彼らは実に幸せそうに寄り添い、微笑んでいたのだった。


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