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ずずーん、という効果音がぴったりな、この状況。


放課後の教室で、晃は机に突っ伏して呆けていた。
「俺が何をしたっちゅーねん」
・・・伊波が、冷たい。話しかけてもことごとく無視されてしまう。
アイスマンと呼ばれる薙に匹敵するか、それ以上の刺々しいオーラを発している彼は全身で
不快感を露にしていて。
今日も口を利いてもらえなかった。休み時間、昼休み、教室を移動する合間。
晃は少しでも時間が出来ると彼に声を掛けてみたのに。
暖簾に腕押し、梨の礫。
3日も続くと、流石に楽天家の彼だって凹んでしまう訳で。
どうしたら良いのか分からずにただただ、落ち込んでいたところへ寄って来る影二つ。
「見事に嫌われたな」
「やっぱアホだからねー」
月詠きっての毒舌コンビがいつもの軽い調子で突っ込むが、失意のどん底にいる彼は口答え
する気力も無い。
「・・・何の用や」
「珍しい。いつもならギャーって言い返してくるコウちゃんなのに。よっぽど堪えたんだねぇ」
よし、よしと言って崇志が頭を撫でた。
「アホは死ななきゃ直んないのよ、きっと。そうやってずうっとうじうじしてればいいんだわ、い
い気味」
「ヒーメ。それはちょっと言い過ぎ」
伊織は鼻でフンと一蹴すると、スカートのポケットから小さな手鏡を取り出しそれに向かって微
笑んだ。
「うーん、いつ見ても美人よねぇ、伊織ちゃんってば」
「・・・ヒメ」
やや低い、掠れた声で晃が彼女の名を呼ぶ。
「何」
「お前・・・知っとるんか?アイツの、伊波の怒ってる理由」
「当ったり前じゃない。ていうかあんた以外は皆知ってると思うんだけど」
「・・・ラギも・・・?」
「オフコース」
縋るような眼差しで見つめられた崇志がぎこちなく笑った。
「教えてくれないか。俺にはもう何がなんだか訳が分からんのや。頭ん中がぐちゃぐちゃや」
がっちりとしがみつかれて動けない崇志は、横で知らんふりを決め込んでいる伊織に視線を
投げて助けを求める。
「あたしが?・・・こいつと話すとアホが移りそうで嫌なんだけど」
「そう言わずにさ」
「わーかったわよ。言やあいいんでしょ、言やぁ。おい、ボケ。その付いてんだか付いてないん
だか分かんない耳の穴かっぽじってよーく聞けよ。あんた数日前にあった事覚えてるよね」
「数日前・・・?」
「あのストーカーまがいの女に告られたでしょうが。もう忘れちゃったの?」
少しだけ解け掛かった髪のリボンを結び直し、彼女は大袈裟にため息をついてみせた。
晃はうーんと唸ると目を瞑り、回想モードに入る。


俺はあの日、橘に生まれて初めて告白っちゅうやつをされて・・・それで一緒にいた伊波に自
慢したんやったっけ・・・あの時アイツは・・・。
小さく笑って「良かったね」って言ってくれた。けど。
そうだ。アイツがおかしくなったんはその次の日からだ。
「何でや・・・?女の子に告白されたんがそんなに羨ましかったんやろか?」
と、眉間に皺を寄せて真剣に考え込んだ晃の頭に、容赦の無い伊織の手刀が振り落とされた。
「痛ってぇ!何すんねんな!この馬鹿女」
「もう救いようがないね、前言撤回。死んでも直んないわ、あんたのアホは」
「鈍感さは国宝級だねぇ、いや天晴天晴」
片や呆れた様に横を向く伊織と、口蓋垂が見えそうな勢いでげらげら笑い出した無神経な崇
志に、ついに晃の怒りが頂点に達した。
「何やねん!俺は俺なりに考えとんのやで!お前らもうちょっと仲間に対して優しゅうでけへん
のかい!」
「仲間?そんな反吐が出るような言葉、使って欲しくないね。ここまで言ってもまだ分かんない
ってのがホント信じらんない。よくあんたみたいのが月詠に入れたもんだわ」
「ナンだと?おい、こら。お前言っていい事と悪い事があんだろ。いくら女だからってなぁ、事と
次第に寄っちゃあ只じゃおかんで」
「ふん、負け犬が。上等じゃん」
お互いに一歩も譲らない二人の周りにはどことなく黒い空気が漂い始める。
何かとすぐにいがみ合う彼らはそれがまるで義務であるかのようである。
薙が言っていた『平行線』という言葉は正にぴったりだった。
いつもなら凛が伊織を冷静に一喝して終わるのだが残念ながらその仲裁役もいない。


やれやれ、面倒くさいが仕方ないか。


傍観者を決め込んでいる自分も、今日ばかりは動かなければならないようだ。


「はい、ストーップ」
崇志は今にも掴みかからんとする晃と伊織の間に割って入り引き剥がした。
「コウちゃんもヒメも。そんな事で喧嘩したって伊波ちゃんの機嫌が戻るわけじゃないだろ?
下手な体力使うだけ無駄だぜ」
「うっ・・・」
「まぁ、そりゃそうよね」
伊織はあっさりと引き下がり、晃は唇を噛んで俯いた。悔しいがその通りなので何も言い返せ
ないのだ。
「じゃあまぁ、コウちゃんに優しい優しいオレっちが解説して差し上げましょう。あんね、ぶっちゃ
けて言うと伊波ちゃんが嫉妬してるのはコウちゃんじゃなくて橘になのよ」
「へ?」
「あれだけ熱っつい視線を伊波ちゃんが送ってんのにさ。あの何だっけ、真田とかいうおチビ
ちゃんですら気づいてるぜ。『あすかちゃんまた見てるー。ほんとに好きなんだねぇ』って伽月
ちゃんと話してたから」
「えええっ?!」
パニクって頭をわしわしと掻き毟る晃。
元々癖の強い彼の髪がもつれ合い、見る見るうちにボサボサになる。
「嘘っ」
「嘘、じゃないのよねぇ、これが」
科を作り、崇志がニヤニヤと笑う。
「それじゃ、アイツは俺の事が・・・」
「うじうじ悩んでないでさぁ、アホはアホらしく頭使う前に行動したら?」
呆れ顔で吐き捨てるように言ったのはもちろん伊織。
「・・・俺、探してくる」
ガッターンッ!
勢い良く立ち上がった瞬間に椅子が倒れて床に転がった。
だがそんな大きな音にも気がつかない位余裕が無い様子の晃はぐしゃぐしゃの髪型のまま。
二人に「あんがとな」と頭を下げ、慌てた様子で教室を去っていった。




「ねぇ」
伊織がクルクルと髪を弄び「あ、枝毛発見」と眉を顰める。
「何、ヒメ」
倒されたままの椅子を崇志がよいしょ、と持ち上げ元の位置に戻した。
「あんたってさあ、ホントお人良しだよね」
「お前こそな」
「あぶれたモン同士、くっついてみる?」
「冗談」
「やっぱり」




教室に入り込んでくる山からの風がとても心地良くて。
崇志が誘われるように窓際へと向かう。伊織はというとまだ枝毛探しに夢中になっている。
何の気なしに下を向くと、土煙を上げ、物凄いスピードで校門へと駆けて行く晃の姿が目に入
った。




「頑張れよ、コウちゃん」




幼馴染から卒業できなかったことをちょっぴり残念に感じつつも、彼の口をついて出たのは『親
友』の恋の成就を心から応援する言葉だった。



<補足>

設定は崇志→晃・伊織→飛鳥。

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