同じでありたい




鼻歌を歌っていた。


「ハロー。ご機嫌だね、伊波ちゃん」
突然背後から身動きが取れない程の強い力で押さえ込まれ、飛鳥は振り向く事が出来ない。
だけど揶揄するような声色から、崇志のものであるという事は十分認識できた。
「なーに、やってんの?それ笹?」
「うん」
寮の玄関に飾ってあるそれは、天井までつくんじゃないかという位大きくて立派なもので。
色とりどりの短冊が既に手が届く範囲にだけ、一杯に飾られていた。
願いは実に様々。

『今度の大会のレギュラーに選ばれますように』
『次の試験で学年10位以内に入れますように』

といった、真面目なものから。

『ナイスパディな彼女が出来ますように』
『金持ち』
『世界征服』

等、冗談なのか本気なのか分からないものまで。
華奢な体を解放してやると、偶像崇拝を一切しない崇志は鼻先にあった短冊を親指と人差し
指でピンと弾いた。
「七夕か。何だっけ、織姫さまと彦星さまが年に1度だけ会うことを許された日ってやつ?」
「うん、そう」
「まぁ、アレだな。御伽噺ってやつか」
全く興味ないといった面持ちの崇志はふと、飛鳥が手に持っている薄水色の紙に目を止めた。
「手に持ってんの、何?」
「えっ」
飛鳥は後ろ手に隠そうと試みるも、タッチの差で取り上げられた。
「返せよっ!それ・・・まだ括り付けてないんだぞ」
紙に目を寄せて字を読む崇志に、ぴょん、ぴょん、と跳ねながら飛鳥が取り戻そうとする。
「・・・ふーん」
纏わり付く彼に観念してハイ、と言って短冊を渡す崇志。その顔はにやついており。
「そんなので叶うんなら苦労なんてしないのにな」
笹を顎で指し示しながら同時に皮肉めいた言葉を吐くのも忘れない。
「いいだろ、別に。願うのは自由だ」
「まぁ、そうだけどね」
飛鳥が爪先立ちで空いているスペースを探し、枝の先に自分の短冊を解けないように固く括
り付ける。
その様子を、崇志はじっと腕を組んで眺めていた。
やがて一連の作業を終えた飛鳥が、後ろを振り返る。
近寄ってするり、と腕を組むと心なしか目の前の男の瞳が少しだけ細められて。
「ね、崇志はさ」
「あん?」
「もしも、だよ。本当に願いが叶うとしたら何を願う?」
「愚問だな」
ところどころ刈上げられた眉をゆっくりと上げ、彼は喉の奥でくっと笑った。
「わかんないよ・・・教えて」
伺うように、何かを読み取ろうと飛鳥が顔を見上げると。
いつの間にか、耳元近くに崇志の唇が近づけられている。熱い息が耳朶を擽り飛鳥は思わず
身をよじった。


「お前と同じだよ・・・でも、オレっちは神様なんて信じてないから、叶えてもらうのを只待つん
じゃなくて自力で成就させてみせるけど」


いかにもな答え。
飛鳥は満足、と云わんばかりの、誰もがきっと彼に惹かれずにはいられないであろう表情を崇
志だけに向けて、微笑んだ。



風もないのに。
飛鳥の飾ったばかりの短冊が、ゆらゆらと揺れている。




―――彼と俺に見えるものが、この先もずっと、同じでありますように。




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