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太いストローを口に含みずずっと思いっきり吸うと、甘さと黒い粒が次々に喉にヒットして。
思わず噎せ返りそうになったのを我慢した飛鳥は涙目でその飲み物を、向かいでニヤニヤと
意地悪な笑みを浮かべている短髪の彼に「もういらない」と押し戻した。
「何だよ、ここのおススメはこの『珍珠乃茶』なのに。ちゃんと今日来る前に伊織に聞いて来た
んだぜ。上手いじゃんか、勿体無い」
飛鳥の口がさっき触れたストローを崇志の唇が包み込んで吸い上げる。
「んーっ。この喉に突き刺さるような甘さと、黒い粒々がいい感じ。俺今度からここ通っちゃおっ
かな」
ご機嫌な崇志を他所に、飛鳥は自分の頼んだアイスコーヒーを口直しするかの様にごくごくと
飲み干す。
都内某所。
月詠学園から程遠くない、とある喫茶店に二人は来ていた。
外の気温は31度。クーラーの効いている店内に入って来る人は皆一様にハンカチで汗を拭
う。
京羅樹崇志と伊波飛鳥の二人がこの店に入ったのは僅か10分前であったが程好い風と冷た
い飲み物のお陰で今はすっかり汗は引いていた。
「で?突然どうしたんだ?」
空になったグラスを横に押しのけた崇志が身を乗り出して訊ねたその拍子に、椅子がぎし、と
音を立てる。内装がレトロな感じのこの店は、食器類も然り、中のテーブルや椅子からもそれ
が伺える。無機質なイメージがある彼には十分すぎる程違和感があった。
「え?あ・・・あぁ・・・」
突然近くなった顔に驚いた飛鳥は言葉を濁す。
「忙しいんだろ?いきなり昨日お前からこっちに来るって連絡が来た時はマジで驚いた。何か
あった?」
なぁ、と掴まれたその手はとても熱くて、少しだけ汗を掻いているみたいだった。
「・・・」
「飛鳥」
「・・・お前・・・目は・・・」
搾り出すように言った彼の言葉は、はあぁ、という気合の抜けたため息にかき消された。
「またかよ。お前オレっちに会うと決まってそればっか言うのな」
「だってっ・・・」
飛鳥は俯いて弱く唇を噛んだ。
心配だったのだ。戦いの後に一人ぼっちになって必ず思い出すのは崇志の顔で。
時間がある限り彼の事を想った。
リハビリ・・・頑張っているだろうか。
辛くはないだろうか。滅多に音を上げない彼の事だから無理をしているんじゃないだろうか。
自分の事を少しでも・・・思い出してくれる時なんて・・・あるんだろうか。
(女の子に誰彼構わず声を掛けていたりはしないだろうか)
煩悩に支配されいてもたってもいられなくなった為に、こうしてわざわざ東京にまで足を運ん
だのだったが。
なのに、コイツの反応と来たらどうだ。
こんなに人が色々心配してたってのに事もあろうに『うんざり』なんて表情で。
「・・・心配して損した」
悲しげな光をその目に浮かべ、飛鳥は丸められた伝票を掴み清算しようと立ち上がる。
「おいっ、待てって。どうしてそう真面目かねぇ、伊波ちゃんは」
「うるさいっ、離せよっ」
「・・・あーあ。もう・・・本当に世話の焼ける奴」
崇志がよっこいせ、と重い腰を上げて宥めるように飛鳥の肩を叩き、座らせる。
「・・・ふん」
鼻息をゆっくりと吐いた崇志は頭をぽりぽりと掻きながら、氷が解けてかさが増しているそのグ
ラスを持ち上げて、水を口に含んだ。
「・・・何だよ」
イライラが募り、機嫌を損ねた飛鳥が彼に問う。
「・・・嬉しかったよ、心配してくれて。幸い経過は良くてな。まだ時々痛みはあるけど前ほどじ
ゃない。もうちょっと頑張れば普通に物を見ることも出来るようになるだろう」
飛鳥の手を引き寄せて自分の頬へと崇志が押し当て。そのまま顔をずらすと、ちゅ、と音を立
て手の平に口づけた。
「・・・!」
「ぼんやりとだがちゃんと見えるぜ。嬉しそうな顔だな、それに真っ赤だ」
見上げられた彼は慌てて自分の手を引き抜くと、そっぽを向いた。
「お前だって忙しいのにな・・・こんなオレっちの心配までして・・・けど。あんまり気を使わない
でくれ。お前の負担になってるって思っただけで気が滅入っちまう」
な?と同意を求める崇志の顔は困ったような笑顔。
切なくて、胸がつきん、と疼く。
「負担・・・じゃないよ。俺が・・・・・・たくて、」
飛鳥がからからになった唇を湿らせ、掠れた声で言った。
「?」
「俺が、お前に会いたくて。それで一方的にここに来たんだから。お前が気に病む事は無いん
だ」
一気に捲くし立て、やっぱり恥ずかしさを隠し切れない天照の若き神子はそのまま俯いてしま
う。
「・・・可愛い事を言ってくれちゃって」
『さてと』と呟いた崇志は飛鳥が握り締めていた伝票を毟り取り、木の床を軋ませて席を立つ。
「行くぞ」
「・・・あ、あぁ・・・」
精一杯の告白をするもかわされた、と思った彼は目の前をゆく広い背中を呆然と眺めながら
歩いた。
すると。
「俺だって・・・オレっちだって・・・お前の事をずっと考えていたんだからな」
よく見るといつもクールで動揺なんて見せない筈の彼の両耳は赤くなっていて。
飛鳥の顔がふわん、と綻ぶ。
周りに気づかれないようにそっと手を重ねると、前を向いたままの彼がぼそっと呟いた。
「今日はお前が嫌だって言っても帰さねー・・・覚悟、しとけよ」
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