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伽月と琴音が息を潜めて小声で話し合っている。
「二人とも完全に寝ちゃってるね・・・」
「呼びつけたご本人が寝こけてちゃあ、しょうがないよなぁ、全く。ねぇね、それよりさ、やっぱ
気になるね、あれ」
「うん、琴も・・・」
お互いに頭をつけ身を寄せ合う様に寝息を立てている綾人と飛鳥を目の前に、執行部元気印
の二人組は視線を合わせ微笑んだ。
呼吸をする度にふよふよと揺れる「それ」は、二人のトレードマーク。
何をどうやったらそこだけ立ってしまうのか皆目見当が付かないのだが、本人たちもわざと立
てている訳ではないことだけは明らか。
「この二人が並ぶと・・・ぷっ。本当に可笑しいんだけど」
「カヅっちゃん笑っちゃ駄目だよ〜」
げらげらと笑い転げる伽月の口を琴音が小さな手で塞ぐ。
「ひぃっ・・・ひぃっ・・・おっかしー・・・だってさ・・・本当に面白いんだもん・・・」
伽月はお腹をよじり、声にならない声でどんどん、と床を叩いた。
「もうっ!起こしちゃ可哀相だよっ!・・・琴、アルと遊んでこよっかな・・・」
ぷっとむくれた琴音が机の上に置いていた鞄を掴んで執行部室を出ようとした時、ぱさ、と白
い紙包みが床に落ちた。
「はっ、はあぁ・・・あー。笑った笑った。ん?それ何?」
目ざとい伽月の手がいち早く動き、それを拾う。いやに軽い。振ってみても何の音もしてこない。
「?」という顔で彼女は首を傾げる。
「もう、返して。それは琴のリボンだよっ」
伽月にタックルして包みを取り戻した琴音は蓋を開けた鞄の中に入れようとするが、またもや
彼女に奪取されてしまう。
「あんた持ってるのオレンジのちょんちょりんだけじゃないんだ」
「当たり前でしょ。琴だって女の子です。おしゃれぐらいするよ」
一番気に入っている髪飾りを「ちょんちょりん」呼ばわりされて、琴音は至極不機嫌になった。
「中見るよー。ふーん、綺麗じゃん。赤と緑か。クリスマスみたいだね」
やや乱暴に開けた包みの中からきちんと折りたたまれた細いリボンを指先で摘みあげながら
伽月が目を細める。
「奥津小路の小物やさんでさっき買ったの。いいでしょ」
クリスマスみたい、と言われなんだか急に嬉しくなった琴音はすぐに機嫌を直し得意げに胸を
張った。
「リボン・・・リボン・・・ね・・・ひひひっ、いい事思いついちゃった!よっしお前も共犯だ。手を貸
せ」
「なっ?何?何すんの?」
下卑た笑みを浮かべる彼女に一抹の不安を覚えた琴音がリボンを取り返すべく果敢に掴み
かかるが、いくら学年が1つしか違わなくても体格の差は如何ともしがたく。
伽月が頭を押さえつけると、手が届かない琴音が「うーうー」と唸りながら昔遊んだ薇仕掛け
のおもちゃみたいに手をばたつかせた。
「見てよ・・・この二人・・・似合いそうだよね・・・リボンがさ・・・」
「カヅッちゃんっ!!」
好きな奴は虐めたくなる。
伽月はにやりと笑うと、琴音の制止も聞かずすやすやと寝ている二人に忍び寄った。
「・・・遅くなってしまいましたわ」
「練習に打ち込んでいたのですから仕方ないですよ。今日はいつにも増して熱心でしたね」
「練習?良くって、若林。練習ではなく、『気晴らし』ですわ!何度言ったらわかりますの?」
「はい、美沙紀さん」
にこにこと笑う誠を前に美沙紀はぐっと言葉に詰まった。
(最近・・・やたら交わされているような気がしますわ・・・小憎らしい)
横を歩く彼の腕の中には一つの鉢。白い紫陽花が慎ましやかに咲いている。
「執行部室に飾ろうと思いまして」
練習が上がりオルで汗を拭いていた彼女を迎えに来た誠に手に持っているものについて尋
ねるとそう返って来た。
「何だか心が洗われるような色ですわね」
「はい」
呟くように言ったはずの美沙紀の言葉は、誠に届いたらしい。
瞬間視線を合わせると、ふわっと柔らかな空気が辺りに広がっていった。
手が塞がっている誠の代わりに美沙紀が扉を開けると、そこには呆然と立ち尽くす結奈と晃
の姿があった。
「どうしましたの?二人とも固まって」
「あ・・・」
「美沙紀ちゃん・・・」
二人は同時に振り返り、我に返った晃が慌てて美沙紀と誠の前へ立ち塞がった。
「ええかっ、二人とも!これから見るもんは絶対に他言無用やで。約束できるか?」
「何なんですの、突然」
「・・・何かあったんですか」
「ええからっ!YESかNOか答えてくれるだけでええ。NOなら悪いけどここから先へは行かせ
へん」
「それって強制的にYESって言えって云ってるようなもんじゃないですか」
誠は鉢を抱え直して、晃に的確なツッコミを入れた。
「あー、だから。悪いけどOKって言ってくれや、頼むわ。二人のプライドの為に」
「ごちゃごちゃと五月蝿い人ですわね、私達は御前に呼ばれて来たんですのよ。部室に入る
のにとやかく言われる覚えはありませんわ、失礼」
晃を突き飛ばして、中へと一歩踏み出した美沙紀は、未だ固まったままの結奈の隣まで来る
と目を見開いた。
「これは・・・」
「どうしたって言うんです?」
半分泣きの入った晃に「YES」と言った誠が美沙紀の元へと歩み寄る。
視線の先をゆっくりと辿ってゆく。すると。
奥の壁にもたれかかるように熟睡している綾人と飛鳥の姿がそこにあった。
誰もがいつも気になっているあの部分に小さな可愛らしいリボンをくっつけて。
綾人は赤、飛鳥は緑のリボンを小刻みに動かしながら、寝入っていた。
「可愛い・・・ですね・・・ふた・・・っ」
二人とも、と言いかけたのを、美沙紀と結奈の突き刺さる視線を感じた誠が慌てて飲み込んだ。
「何故こんな・・・?」
「わからへん、俺らもさっき来たばっかでな。こんなんなってましたんや。結奈はんなんて今ま
だショックで口利けてないけど凄かったんやで。ひきつけ起こしそうになってたもんな」
「総代・・・」
目をうるうるさせて微動だにしない結奈の姿を見て、美沙紀は慰めるように頭を撫でた。
「紫上・・・ショックだったんですわね・・・私も正直びっくりして何といって良いやらわかりません
わ・・・」
「当人達が目を覚ましたら・・・どうなるんでしょうか・・・」
「ワカ!お前怖いこというなやっ!」
「だって・・・」
4人は銘々に彼らの起きた時の様子を想像し、体を震わせた。
「御前は・・・まぁ、劇でも女装とかやってますから・・・多分怒らないとは思いますけれど・・・問
題は伊波飛鳥ですわね。彼はどんな反応するかしら」
「伊波は、体が華奢や。自分でもそれは大いに気にしとる。だから女扱いされることが一番嫌
いなんや。まして可愛いリボンなんてくっつけてたなんて知ったら・・・自殺でもしかねんな」
「更に僕らに見られていたなんて分かったらどうなるか・・・」
晃と誠が同時にため息を吐き出した。
「とりあえず席を外した方が良さそうですわね」
「でも・・・今日の会合は・・・」
「それどころじゃありませんでしょ。紫上、あなた御前に恥をかかせるおつもり?」
「・・・」
4人は声を押し殺して囁き合い、そして執行部室を後にした。
日は既に傾き青い月が見え隠れしている。
机にぽつんと置かれた白い花は、先ほどと変わりなく慎ましやかに咲いていた。
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