アイジョウヒョウゲン




「ちわっ、第三便お届けに上がりました〜」
荒々しく連続的に繰り返されるノックに、キーボードを打つ手を止めた七条はやれやれと肩を
竦めた。
そうして今日はもうずっと朝から不機嫌な様子の彼のこめかみがひくり、と動くのを見逃すこと
なくすかさず宥めに入る。

「駄目ですよ、郁。そんなに顔を顰めたら眉間に皺が」

寄ってしまいます、と自分のそこを指差すと、指摘された本人は「知っている」と不貞腐れ気味
に頷いた。

「だがこう頻繁に来られては集中力が削げる。昨年よりも酷い様だ」
「・・・上に立つものの宿命です、甘んじて受けなくては。それに郁の場合は特別ですよ。何し
ろイベントが二つも重なってしまってますからね。多くなっても仕方ありません」
手が塞がってドアを開けられない滝を中に入れてやりながら、七条は自分もまだ外に置いて
ある段ボールを中に運びはじめる。
「この外にあるやつもですよね?」
「せや。七条の分もあんで。お前のはマジックで別に名前を書いてあるからな」
「ああ、これですね」
「悪いけど運んでくれるか」

部屋の片隅に着々と、うず高く積まれてゆく箱。

それらをうんざりした顔で迎えた西園寺が目の前のティーカップに触れようとしてつ、と手を止
めた。

「これで、全部ですか?滝くん」
「とりあえず、はな。この後も又来ると思うけどよろしゅー頼むわ」
おっこらしょ、と最後の箱を運び終えた滝は一息ついてポケットの中から無造作に取り出した
ハンカチで額の汗を拭い去る。
「大変そうですね、滝くんも」
「おう。本当の事言うと啓太にも手伝って貰おうと思ったんやけどな。全然捕まらんのや・・・
ったくこの書入れ時に」
「ご苦労様ですね」
「ま、食券の為や、しゃーないわ・・・ほなな」
「はい」
「臣」
滝が去り、ドアが閉じられるや否や。少しだけイラついた声が七条の背中に掛かった。
呼ばれた方はゆったりとした足取りで西園寺の方へと近づく。
「・・・臣」
「何でしょう」
「すっかり冷えてしまった・・・お代わりを頼む」
「分かりました」
「ああ・・・それと」
「はい?」

まだ中に半分ほど残っているカップを受け取り首を傾げる彼に西園寺は怒ったようにこう続け
る。


「アイツが来るまでに・・・それは隠しておけ」
「・・・そうですね」




これからここを訪れるであろう可愛い「来客」の為に。




シャツの腕のボタンを外し、腕まくりをして。口元を綻ばせながら七条は深く、大きく頷いた。


滝が全ての荷物を届け終え、七条がそれを衝立の裏に隠し終えて。
西園寺が今日一日分の仕事を片付け終えた頃。


彼らの耳に、憶えのある遠慮がちなノックが聞こえてきた。


トン、トン、トン。


とん、とん、とん。


「・・・あの・・・伊藤、です。入っても宜しいですか?」
「どうぞ、開いてますよ」

もじもじと少しばかり照れた様子で入ってきた彼の後ろ手に持つ物を確信しながら、西園寺は
いつもと同じ調子で彼に問う。

「どうした?手伝いにきたのか?」
「えっと、その」

きょろきょろと何かを探すように部屋を見渡す啓太の視界を背の高い七条がついと遮る。

「何かお探しですか?」
「あ・・・あの・・・」
言いよどみ、啓太が縋るような眼差しを投げる先は、まるでどこか面白がっているような表情
の西園寺。
「探しものなら私も手伝うぞ」
「い、いえ・・・いいです」


(・・・まったく優しいんだか、意地悪なんだか)


一人胸の中で呟き、では僕は三人分の紅茶でも入れて来ましょうかと七条が啓太にソファに
座るように促すと。自分と西園寺のカップを両手に持ち、衝立の奥へと消えていった。

やがて壁一枚隔てた向こうからは彼の存在など全く無視した、まるで砂糖壺をひっくり返した
ような甘々な会話が次々に耳に飛び込んでくる。

「ありがとう、啓太。嬉しいぞ」

「良かった。俺、何にしたら良いか迷ったんです・・・もしかしたら西園寺さん受け取ってくれな
いかも、なんて思ったりもしたから・・・」

「馬鹿だな。私が啓太が心を込めて選んでくれたものを受け取らない訳があるまい」

「西園寺さ・・・」

「折角だからお前が食べさせてくれないか?」

「でっ・・・でも・・・」

「なら私がお前に食べさせてやろうか?」

「やっ!結構ですっ!やります!俺がやりますからっ!」


(やれやれ、ですね)

「・・・しかしこれは凄い量だ」

もう充てられる事には慣れてはいるが最近それもちょっと困りものだなと思いつつ。
シンクの後ろにある「山」を見つめ、眉間に皺を寄せて七条は小さく愚痴る。

「また、全部僕が片付けないと駄目ですかねぇ・・・」

溜息一つ。
それだけ吐き出すと、くるりとそれらに背を向けた七条はやや物憂げな表情で啓太の大好
きなダージリンの缶を勢いよくかぽん、と開けた。

<補足>

えー。啓太は自分の他にもプレゼントを渡している人がたくさん居るだろうとそれを探して
いて、西園寺はそれを分かっていて出来るだけ彼が渡しやすい状況下を作ってあげたと
いう訳です。勿論彼が自分の為にプレゼントやチョコを買うということは予想していたんで
しょう。
一応郁ちゃんおめでとうな話。啓太が殆ど出てきませんがつまりはなぁんだ愛し合ってん
のねっ、ラブラブねって事です、はい。

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