捉える


【6】
〜啓太side〜


「・・・あの、なかじまふぁん・・・」
「全部食べてから言え、俺は逃げない」
さっき口に入れたリンゴがまだ残っている。俺はそれを噛み砕くとごくん、と飲み込んだ。
「・・・あの」
「何だ」
「王様とか・・・は、何か言ってましたか・・・?」
「丹羽?・・・ふーん。見舞いに来るのが俺だけでは不満か?」
至極不機嫌だとばかりに中嶋さんはフン、と鼻を鳴らす。俺は慌てて言葉を選び直した。
「いえっ!そうじゃ無くて・・・あの・・・昨日俊介が王様とか西園寺さんとかも来るって話をして
いたんで・・・」
「滝か」
「はい」」
「ああ、あの通りお前の事に関しちゃ、お祭りの様に騒ぎ立てる連中ばかりだからな。丹羽も
時間が出来たら行くと言っていたが・・・」
だったらどうした、と云わんばかりに中嶋さんは不機嫌そうな顔でリンゴに手を伸ばす。
「あの・・・」
そうじゃなくて。本当はそんな事が云いたいんじゃ、なくて。
今どうしているのか一番知りたい人の名前を俺は言い出せずにいる。この人の前でその話題
に触れるのはやっぱり気が引けた。
シャリ、シャリ。
中嶋さんは俺の顔をじっと見ながらリンゴを食べている。俺はと言うと何も言えずに俯くだけだ。
どうしよう・・・。
会話が続かない。
何とか彼の気を引くような話題は無いかとなけなしの脳味噌を総動員して、俺が四苦八苦し
ていると、突然「啓太」と呼ばれた。
「は・・・はいっ」
「俺は・・・いつまで待ってやればいいんだ?」
「あ・・・」
その言葉に慌てて顔を上げると。どこまでも、何もかも見透かすような鋭い視線に捕らわれる。
「そろそろ答えを出してくれてもいい頃なんだがな」
いつもと変わらない冷ややかなその口調に、汗がこめかみを滑り落ちてゆくのが分かった。
「・・・あの・・・」
遂に、回答を出さなければならない時がやって来たんだと、俺は思わず唇を強く噛み締めた。
確かにこのままじゃいけないって分かってる。
中嶋さんの優しさに甘えたままじゃいけないんだって。

だけど・・・俺は・・・未だに迷っていた。

どうしよう・・・どうしたらいいんだろう・・・

「俺・・・俺は・・・」
「・・・・・・」
「中嶋さん・・・俺っ・・・」
「悪かった」
ふう、と溜息を吐き出したその後で。中嶋さんは俺の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
「困らせすぎたな・・・いい、今日はもう寝ろ。だけどな、啓太。決めるのは俺でもあいつでも無
い、お前自身なんだ。それをよく覚えておけ」
「なか・・・じまさん・・・」
「じゃあな・・・ああ、そんな泣きそうな顔をするな。明日又来る」
自分の座っていた椅子を片付けたので帰るのかと思いきや、中嶋さんは俺のいるベッドに近
寄って来て徐に腰を下ろす。そうして。
「・・・どんな結果でも俺は受け止めるから。だから余り考え込むなよ」
今までに無い位優しいキスを一つ残して呆然としている俺を残し、病室を出て行ったんだ。

俺はその晩。
暗い天井を見つめながら、考えに考えて。自分なりの結論を出した。



一方、啓太の見舞いから帰ってきた中嶋は明日持ってゆく荷物を取りに行こうと啓太の部屋
へ向かう。
するとドアの前でぼうっと突っ立っている一人の男の姿が目に入り。
「やっとおいでなすったか」
中嶋はその唇に冷たい笑みを浮かべると、影に向かって声を掛けた。


「こんな所に一体何の用だ?・・・遠藤」


[つづく]



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