捉える


【2】
〜中嶋side〜

心に空洞が出来た人間を落とす事等、容易いこと。それが伊藤啓太という存在なら尚更。
純粋、純真。何も知らない無垢な彼の顔をこの手で苦痛に歪ませられたらどんなに楽しいだ
ろう。
誰でもない、俺自身の手で。

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今、その啓太は俺の胸の中ですすり泣いている。
だがその原因は自分ではない。啓太を愛している、とほざいていたあの遠藤だ。
あと一歩のところだったのに。横から掻っ攫うような形で欲しいものをまんまと奪われた。この
俺が、だ。

何が愛してる、だ。何が一生守ってやる、だ。

「くっ」

全く笑わせる。

愛してる筈の恋人にこんな仕打ちをしているのは誰だ?

守ってやる筈の奴がどうして啓太を泣かせているんだ?

「啓太」
いつまでたっても泣き止まない彼の顎をぐいっと掴み自分へと向けさせる。
「っ・・・なかじま・・・さん?」

そんなに目を真っ赤に腫らして。

「お前は捨てられたんだよ、啓太。遠藤はお前に飽きたのさ」
「そっ・・・そんなっ・・・和希がそんな事っ・・・」

お前にそんな顔をさせることが出来るなんて。

アイツは。

遠藤は。

一体俺と何処が違う。

「見てたんだろう。二人が何をしてたのか。あんなのを見せられてもお前はアイツを信じるって
いうのか」

何処が違うって、いうんだ。

痛いんだろう。ココロが。

苦しいんだろう。

アイツがお前につけた傷。

俺はそれを塞いでやったりはしない。一旦つけられたならそれ以上の傷をつけて自分のもの
にしてしまうまで。

「哀れだな、啓太」
「・・・うっ・・・ううっ・・・っ。俺・・・俺はっ・・・和希・・・」
啓太は体中の力を失い、俺にもたれたままその場に崩れ落ちる。目は虚ろで焦点が合って
いない。

迷っている。

俺は思わず笑みを漏らした。

迷え。

迷え、もっと。

そして俺の手に縋ればいい。

泣いて、その顔をぐしゃぐしゃにして、俺に泣き付けばいい。

あと少し。あと少しだ。

「今のお前が一番必要としている人間は誰だ?」

レンズの奥から冷たい視線を投げる。ビクン、と啓太の体が波打った。

混乱している。こんなチャンスをやすやすと逃すほど俺は愚かじゃない。

洗脳。

そうかも知れない。

選択肢はたった、一つだ。

「答えろ、啓太」

止めを刺してやる。

「・・・な・・・」

さあ。

「誰だ?」

「な・・・かじま・・・さん・・・」

漸く予想通りの言葉が、震える唇から紡ぎ出された。

濡れている、赤い瞳。

どんなに今の自分が俺を興奮させているのかなんて、お前は気づかないんだろう、啓太。

「俺を、選ぶんだな」

無意識に伸ばされた腕が、肯定の証。

「俺は・・・俺は・・・っ・・・」

「いい。もう何も考えるな」

お前の頭から余計な事なんて全て消し飛ばしてやる。

「お前を泣かしていいのは俺だけだ」

身体を抱き寄せ、髪を掴み、噛み付くようなキスをする。
唾液を絡ませ、舌を強く吸ってやるとしがみついていた啓太の腕がだらん、と力なく垂れた。




「俺のものだ」




もう。




誰にも渡さない。




[つづく]



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