午前の授業。
ぼけーっとしてた所為で、教師に注意され。
お昼も何だか喉を通らないで憂鬱なまま出た午後の授業では指されまくって。
その間にも、出来る事なら来なければいいのにと強く願ったりもしたけれど。
反抗の余地は無いのだといわんばかりに否が応でも放課後はやってきた。
「いくら郁ちゃんでも独り占めはいけねぇなぁ」
「お前と一緒にするな」
王様と女王様と。
「我儘なご主人をを持つと苦労するな・・・ま、手のかかる奴ほど仕えがいがあるってものか」
「同情される覚えはありません。その台詞そっくりそのままお返ししますよ」
七条と中嶋。
そして。
口論の元となっている啓太。ホームルームが終わって教室から出るなりいきなり現れたゴー
ジャスといえばあまりにもゴージャスな四人の出迎えに。彼は困り果てた表情を浮かべ、その
場に立ち尽くす。
学生会と会計部。
どちらを手伝うかというもうさして珍しくも無い、第三者が見ても「またやってる」程度の日常茶
飯事なその光景が。
・・・いつもの如く、学園内で繰り広げられていた。
大概はあーもう面倒くせぇと先に丹羽が根負けして終わる。が、今日に限って彼は引き下がら
ない。
西園寺にしたらまたか、と言った感じで適当にあしらえばいいと思っていたのだが・・・どうやら
そうも行かない様子で。
「会計部にはこのところ連荘で啓太は手伝いにいってるよな。そろそろ俺らの方に返してくれ
てもいいんじゃねぇかと思うんだが」
「人をモノみたいに言うな。お前が啓太の手を借りたいのは自分が楽をしたいからだろう」
ふんと鼻を鳴らして西園寺は胸を反らした。まだ異論があるのかとでも云いたげに。
案の定丹羽は拗ねたように押し黙ってしまった。
そして大体ここいらでは中嶋の「その通りだ」という台詞が入るのだが・・・彼は今回珍しく丹羽
に味方した。不機嫌そうにぼそりと呟く。
「通常ならな」
「何?」
「この三日間、丹羽は学生会室に缶詰状態だ・・・俺の監視下でな」
その言葉に啓太が丹羽の顔をそうっと見上げると、うっすらと目の下にくまを作り、いつもの凛
々しい顔はどこへやらなぶすくれた表情で腕を組んでいる姿が目に入った。
何だかやつれているようにも見える。顔色もいつもより悪い・・・かも知れない。
「俺も丹羽も睡眠時間を惜しんでやっている。それ位こっちは忙しいという事だ」
忙しい、という部分にやけに力を込めて、中嶋がちらりと啓太を睨んだ。その鋭さに思わず体
が縮み上がり。啓太は思わず「ひっ」という悲鳴に似た声を上げていた。
咄嗟に庇うように七条がつい、と彼の前に立つ。必然的に啓太はすっぽりとその背中を隠れ
蓑にする形となって、もう一度見たら確実に殺されそうな冷視線から逃れる事が出来た。
「なぁ、啓太。お前困ってる奴がいたら放って置けないよな?この通り学生会も忙しいんだ・・・
頼む、手伝ってくれ。お前の力が必要なんだよ」
最早本人に言うのが一番と悟ったのか。大きな体を揺すり丹羽が両手を合わせて啓太を拝む。
「お・・・俺・・・」
本心を明かせば大好きな七条の側にいたい、と言いたい所だが。こうも弱々しい姿を見せら
れてはお人良しな啓太だ。無下に断る事も出来ない。
(仕方ないか・・・王様だって頑張ってるみたいだし。俺にでも出来る事があるんなら・・・)
啓太が丹羽の方に一歩踏み出し、いいですよ、と言いかける。
が。
そのとき。
「では勝負しましょう」
唐突に。
こういう時まず提案をすることなどないだろうと思っていた「彼」が。
「このまま争っていても埒があきませんし。こちらだって彼が必要なんです」
言いながら啓太の腕を七条が掴んで自分の許へと引き戻す。
「しょう、ぶ・・・だ?」
丹羽の目が険しいものへと変わった。
「ええ」
「・・・・・・」
そんな彼を、西園寺は何を言い出すんだと眉をぴくりと動かし、中嶋は眼鏡の奥の目を不快
そうに細める。
「し・・・七条さん」
袖を引っ張って何の、と問う啓太に微笑みを返す七条は、涼しい顔で言葉を続ける。
「野球は、どうですか。頭を動かすより体を動かす方が会長は好きでしょう」
「野球?」
てっきり頭脳戦を持ちかけられると思ったのに。どう見てもインドア派っぽい彼の口からスポ
ーツの名前が発せられるなんてと、彼以外の三人が一同に驚く。
明らかに七条さんの方が不利そうなのに・・・と啓太も心配そうに彼を見つめた。
丹羽は何が何だかと云った様子で後頭部をぽりぽりと掻く。
「お、俺はいいけどよ・・・郁ちゃんはその・・・」
「臣、何を考えているのか知らないが私はやらないぞ」
「それにだ。やるにしても人数が足りないだろう」
「大丈夫です。やるのは一対一ですから」
様々な反対意見が飛び交う中七条だけは冷静だ。寧ろ思い通りの反応に喜んでいるように
すら見える。
「一対一って・・・」
「僕と、丹羽会長で勝負するんですよ」
不意に滝くん、と七条が呼んだ。野次馬の一人となっていた彼は呼ばれたことが嬉しかった
のか、にこにこと人懐こい笑顔で彼らの側に駆けて来た。
「何や?」
「君が今持っているのは何ですか?」
「何ですかって、お前。見たら分かるやろ。バットとグローブとボールやん」
野球部のデリバリーの途中なのだと云う彼に七条は満足そうに頷く。
そうして。
「道具もちゃんとあることですし。そうだ、アンパイヤは彼にやってもらいましょうか?」
「は?」
次々と事を進めていく。
どこか楽しそうな七条とは裏腹に怪訝そうな顔をしていた丹羽はやがてその勢いに押されたの
か・・・
いや。
何より男なら、売られた喧嘩は買わねばなるまいという意地があったのかも知れないが。
「丹羽会長。この勝負、貴方なら受けてくれますよね?」
挑発しているような笑顔に 丹羽はついこう答えてしまっていた。
「・・・望むところだ」
かなり珍しい組み合わせの丹羽と七条。
表向きは学生会VS会計部。
だが、おそらく。
半分以上は個人的な感情が混じってそうな対決は。今正に、火蓋を切ろうとしていた。
(丹羽と七条。二人の戦いの結末は・・・いかに?)
[つづく]
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