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何で、いつもこうなっちまうんだろう。
「あーもうっ、畜生!」
頭を掻き毟り、足元にあるものを片っ端から蹴っ飛ばしても良い知恵なんて浮かんでくるはず
も無い。それでも何かに当たらずにはいられないのにはちゃんとした理由があった。
『王様のばかぁっ!』
数分前に自分の前から立ち去った、瞳に溢れんばかりの涙をいっぱいに溜めた啓太の顔。
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「仕方ねぇじゃねぇか・・・」
呟く俺の横で、べこべこになった缶がカラ、と音を立てた。
普段から啓太は滅多なことが無い限り、自ら我儘を言ったりはしない。
その彼が今日珍しく「今日1日は自分と一緒にいてくれ」と言い出した。
「や、でも今日はヒデに頼まれてた仕事を片づけたいから・・・」
それが終わってからでもいいか。
とこちらは気を使ってやったつもりだったのに、その言葉を受けた啓太の顔は忽ち曇った。
「あの・・・あの、その仕事・・・明日って訳には行きませんか・・・」
「おいおい、啓太。無理言うんじゃねぇよ。お前の口から仕事をサボれなんて言葉が出るなん
て思わなかったぜ」
いい子だからあんまり俺を困らせないでくれよ、と頭を掻き混ぜて苦笑いをしてみせた俺はそ
こで啓太の思い詰めた表情に気が付くべきだったんだ。
「・・・もう・・・良いです。俺・・・帰ります」
俯いたまま、啓太が呟くように言った。
「啓太?」
「知らないっ!もう俺王様なんて知りませんっ!」
がばっと顔を上げて俺を睨んだその目は真っ赤だった。
「王様のばかぁっ!」
バシッ。
怒声と共に何かを叩きつけられ、俺がそれに気をとられ拾っている間に啓太の姿は影も形も
無くなっていた。
訳が分からない。
分からない、が。
とにかく把握しなきゃいけないのは啓太を泣かせてしまったという事実だ。
だが、理由が分からない以上はどうしようもなく。
そんな俺が起こした行動はといえば周りにあるものに当たる、という実に大人げない行為だっ
た。
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「何だってんだよ、くそっ」
少し開きかけていた学生会室のドアをやや乱暴に足で蹴っ飛ばして中に入ると、パソコンに
目を落としていたヒデが右の眉を吊り上げて俺を睨んだ。
「ご機嫌斜めのようだがモノに当たるのは辞めてくれ。壊されたらかなわん」
「うるせー」
手近にあった椅子に体を投げ出す俺を「フン」と鼻で一笑した『奴』は俺の傍に書類を持って
近づいてきた。
「何も聞かねぇのか」
「大体察しはついているからな」
昔からそういう奴だよ、お前は。
ばさ、と分厚い束を目の前に置かれて、俺はボールペンを手に取りとりあえず書類に集中しよ
うと試みる。しかし頭の中には啓太の泣き顔がちらついて離れない。
「あーあ」
早々にペンを投げ出しそのまま机に突っ伏した。
もう何が何だか。
何か怒らすようなこと言ったかなー・・・俺。
目に涙一杯浮かべて。あんな表情されたら仕事なんて手に付くはず・・・ねぇだろうが。
ため息ばかりを繰り返す俺に、集中できなくなったのだろう。ヒデが振り返り冷たい笑みをそ
の口に浮かべた。明らかに怒っている。
「お前ここに仕事しにきたのか、休みに来たのか、一体どっちなんだ」
「あん?一応仕事しにきたつもりだけどよ・・・そんな気起きなくなっちまった」
「啓太に何か言われたか」
そう言うと彼は徐に俺の隣の椅子にゆっくりと腰を下ろし、胸ポケットから煙草を取り出して火
を点ける。
直後ふうーっ、と煙を顔に思いっきり吐きかけられて俺は思わずむせ返ってしまう。
「何すんだよ」
「・・・その袋の中身は見たのか?」
「・・・いいや」
「鈍にも程がある」
にやりと口角を上げて笑うヒデが全てをお見通しって感じで何故かむかついてきて思わず俺の
声も大きくなる。
「何だよっ!何だってんだよっ!お前何か知ってんのかよ」
「・・・今日は何月何日だ、哲っちゃん」
楽しくて仕方が無いといった様子でヒデは美味しそうに煙草を燻らせている。
・・・は?
「はちがつ・・・じゅうごにち・・・だろ?」
「当たり。で、その日に一番関連が深い人といえば誰だ?」
「誰って・・・あ!」
「やっと気が付いたか、大馬鹿もの」
骨太の長い指が灰皿に押し付ける吸殻をぼんやりと見ていた俺は、啓太の誕生日に「俺の誕
生日はどこにも行かなくても良いから一緒にいような」といっていた自分の言葉を思い出した。
啓太はそれはもう嬉しそうに「はいっ」って頷いて笑ってくれたんだ。
俺・・・何て事を・・・。
「でも・・・俺は・・・お前に仕事頼まれて・・・」
「ああ、お前はハナからやらないだろうと思っていたから俺が全部やっておいた。まぁ、啓太に
頼まれてたってのもあるんだがな」
「え?」
「誕生日は仕事入れないで下さいって3日位前にお願いされたんだよ。全くこれじゃあ俺が約
束破ったと思われるだろうが。ちゃんと後でフォロー入れとけよ、丹羽」
自分の馬鹿さ加減に言葉も出ない。
「で?どうする?」
改めて聞かれるまでもない。
俺は、鞄と啓太のプレゼントだと思われるその袋を引っつかむとそのまま外へと飛び出した。
多分アイツのことだ。今頃自分の部屋でたった一人で泣いているに違いない。
ごめん。
ごめん。啓太。
もう泣かせないから。
まだ時間はある。
日付が変わるまで、いや変わっても朝までずっと一緒にいよう。
この両手で、お前を嫌って言う程抱き締めててやるから。
流れる汗も拭わず、ただ無我夢中で俺は一直線に彼の元へと走っていた。
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