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多分この辺に・・・
「やっぱりここにいた」
呟いた言葉が小声なのは、ぐっすりと熟睡中のあの人を起こさないようにする為。
俺は出来るだけ足音を忍ばせて彼の側に近づく。
けれどどんなに今日が風が無くて妙に陽射しが強い暖かな日でも季節は「冬」。
枯れ葉がそこかしこに散らばっている芝生の上のこと、極力踏まないように気を付けても限
界というものがある。
がさっ。
遂にその中の一枚を踏んづけてしまった俺は頬に鳥肌が立つのを感じながら、泣きそうな顔
でその人を見下ろす。
「う・・・ん・・・」
すると不機嫌そうに伸びをした「彼」は閉じていた瞼をそろりと開けて俺を焦点の合っていない
ような目でじっと見つめてきた。
何度か瞬きを繰り返した後で大きな手がゆっくりと動きはじめる。それが俺を手招きしている
のだと気づいたのは低い声で「啓太」と呼ばれた時だった。
「・・・あの」
すみません、起こす気は無かったんですと頭を下げると「いいから」と鼻を鳴らして今度は少
々イラつき気味に俺を呼ぶ。
「早く」
「はい」
強い糸に手繰り寄せられるように、少しずつ彼へと近づいていった。
「ここに座れ」
顎でしゃくられた場所には俺よりも一サイズは大きいジャケットが敷かれた。この人なりの優し
さなのだと分かってはいたけれどやっぱり恐縮してしまって。
「でも皺になりますよ」
「俺がいいって言ってんだからいーんだよ」
いちいち細けぇ事気にすんな。
それでもちょっと気がひけて二回目の断りを入れようとした時。初めて呼びに行かされた時の
中嶋さんの言葉が、ふと頭を掠めた。
『アイツの寝起きは最悪だ。気をつけろ』
「・・・じゃ、じゃあお言葉に甘えます・・・ごめんなさい」
もしかしてまだ寝ぼけているのじゃないかと不安になっておとなしく指定されたそこへ俺は遠
慮がちに腰を下ろした。
「よし」
そんな様子を見ていた彼は満足げに頷くともぞもぞと体を起こした。次の瞬間。
「しばらくこうさせろ」
―――ぽふん。
一体、何が起こったのか。
目を白黒させてあわあわと俺が視線を落とせば、じっと見上げているのは王様の顔で。
「あの・・・あの」
「お前の膝寝心地良さそうだからな。芝生も悪かねぇけど、ちょっと痛てーんだ」
すり、と犬が甘えるような仕草で俺に抱きつくその様は威厳があるいつもとは違って幼い子供
みたい。
「いいだろ?」
「・・・はい」
乱れた髪をそっと手ぐしで梳き上げると、気持ちよさそうに瞼を閉じた。
うわ、どうしよう。
急に胸がどきどきし始めた。
どうか心臓の音、聞こえてませんように。
祈るような気持ちで平静を装う俺に王様は何かを思い出したように再び目を開ける。
「なぁ、啓太」
「はい」
「ちょっと聞きたいんだが・・・その・・・お前、俺といて幸せか?」
「え?」
余りにといえば余りにも唐突な質問に、さっきまでの緊張が波のように引いていく。
俺を見上げていた筈のその顔は、今は横を向いているので表情が掴めない。
「何で急にそんな事・・・」
「俺は幸せ過ぎて・・・時々怖くなるんだ。今お前が俺の前から居なくなったりしたら一体俺は
どうなるんだろうって・・・そんな事を考える時がある」
「王様・・・」
「ああ・・・くそっ・・・!何か・・・こういうのは俺らしくないよな」
髪を掻き毟る両の手をそっと押し留めた俺はぶっきらぼうな口調の影に隠された感情に胸が
熱くなる。
「王様」
「悪ぃ。やっぱ何でもねぇ」
何でも無いって、もう全部言ってるくせに。
くすりと笑って俺は答える。
「俺は十分幸せですよ・・・」
身を屈めて真っ赤なそこへ口を近づけ小さく囁けば。びっくりしたように耳を押さえて起き上が
る王様。
「うわっ!」
唖然とした様子の彼の頬にそれを証明する為の口づけをすると大きな体がびく、と震えた。
「啓太・・・」
「俺は、何処にも行きません。貴方が好きだから・・・貴方が望む限り俺はずっと」
・・・そばに、いますから。
全てを言い終わらない内に齎されたキスは思いの外、優しくって。
その唇の熱さに驚きながら瞳を閉じた俺は、もう一度その存在を確かめるように大きくてあっ
たかな彼の背中にしっかりとしがみついた。
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