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「啓太」
「伊藤くん」
同時に名前を呼ばないで欲しい・・・
対照的な表情を浮かべた彼らの顔を交互に見た後、俺は肩で息をついた。
左隣には中嶋さん。
右隣には七条さん。
対照的な表情を浮かべた二人に挟まれて、どちらに答えるべきか悩んでいる中央の俺。
七条さんを選べば中嶋さん曰く「お仕置き決定」。
中嶋さんを選べば七条さんは「僕よりあの人を選ぶなんて・・・伊藤くんは随分と酷な事をしま
すね」と悲しそうに目を伏せてしまうだろう。
余裕なんて無い筈の頭は何処かで似たような光景があったな、と記憶を辿り始める。
・・・そうだ。
ちっちゃい頃に親に連れて行ってもらったデパートのレストランで、デザートをプリンとケーキ
のどちらにするか聞かれた時と全く同じ心境。
どちらも好きだから本音を言うと両方欲しいのだけどそれでは駄目だ、一つを選べと迫られて。
泣く泣くあの時はプリンを選んだ。隣でクリームべたべたの顔で美味しそうにケーキを頬張る
妹のフォークを取り上げたらめちゃめちゃ叱られたっけ。
だけど今の状況はそんな可愛らしいものではない。どちらかを選べば種類は違えど嫌な思い
をするのは分かっている。
なんて難しい二者択一問題。
「啓太。久々に映画でも見に行くか、土曜日でいいな」
「伊藤くん、美味しいパフェのある喫茶店が出来たそうなので土曜日そこへ行ってみません
か?」
映画とスイーツ。
洋画も甘いものも大好きな俺にとっては正に選択に悩むお誘いで。
「あの・・・ええっと・・・」
誘った曜日が同じだと知るや否や、頑として譲り合わない二人に「日曜日もありますけど・・・」
恐る恐る日にち変更を提案した俺だが、二人同時に「却下」と一蹴される。
「お前が譲れ。俺の方が先輩だろう」
「そんな気はさらさらありませんね。寧ろ貴方こそ大人だったら後輩に譲ればどうですか」
「断る」
他人が見たら卒倒しそうな冷ややかな会話が目の前で行われる中で、俺は変な汗をかきな
がら二人を引き剥がし。「ちょっと・・・考えさせて下さい」と言うのがやっとだった。
問題は先送りにすればするほど辛くなる。
誰かが言った言葉を胸の中で反芻してみる。自分が置かれている立場がそれに当て嵌まっ
っていた。
というのも明日がその『土曜日』で。
いい加減痺れを切らした二人は前日の今日、俺に決断を迫ってきているという訳だ。
「さあ選べ、啓太。俺か、それともこいつか。まあ選択肢はあってないようなものだが」
「いいんですよ、伊藤くん。君は君自身の気持ちに正直に選んで下さい・・・そう、例えこのい
けすかない男がそれで憤慨したとしてもね」
「何だと?」
「・・・あのっ」
・・・仕方ない。
俺はもう一か八かで考えに考えた自分の意見をおずおずと述べてみた。
「なんだ、啓太」
「伊藤くん?」
「俺・・・どちらかだなんて選べませんっ!だって二人とも好きだから・・・だから・・・無理です」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人は俺の言葉に目を大きく開く。
向けられる視線が痛い。体中に突き刺さるみたいで怖くて足が震えてくる。けどここで引き下
がったら駄目だと自分自身を奮い立たせる。
「どうしても二人が土曜日が良いと言うのなら両方に付き合います!それじゃ駄目ですか?」
だって体は一つしかないのだ。これ以上他に方法なんてないじゃないか。
窺うように下から彼らを見上げると二人は難しい顔をして固まっていた。
「やっぱり・・・だめ・・・ですか」
先に口を開いたのは中嶋さんだった。彼は大きな溜息を吐き、そしてごつんと俺の頭を軽く叩
いてきた。
「どっちもってのが気にはなるが・・・まぁこれ以上お前を苛めても泣くだけだ、止むを得ん。七
条、ここまでこいつが言っているんだ。譲歩してやれ」
すると七条さんも小さく息を吐き俺に向かって「いいですよ」というように頷いてみせた。
「この人に指図されるのはこの上なく不快ですが・・・伊藤くんを泣かせてしまうのは僕もいい
気分ではありませんからね。仕方ありません。我慢しましょう」
「じゃあ・・・」
俺の頭をそうっと撫でてくる七条さん。
「その代わり明日は僕の方の用事を優先して下さいね」
にっこり。
表面上は柔らかな、その笑みは無言のプレッシャーを与えてくるので俺は小さく「はい」と直
ぐに頷きそうになってしまう。だが俺が口を開くよりも先に中嶋さんが異論を唱えた。
「おい、待て。何故そうなるんだ」
間髪入れず腕をぐいっと引っ張られて俺は中嶋さんの胸の中にぽふんと倒れる。
「先に約束したもの勝ちです、ねぇ。伊藤くん?そう思いませんか」
七条さんは素早く俺の空いていたもう片方の手を握って自分の方へと引き寄せようとする。
気のせいか・・・さっきの状態と同じような気がしているんですけど・・・?
「啓太。お前はどうなんだ」
「あの・・・ええっと・・・」
「伊藤くん・・・どうなんですか?」
引っ張られる腕の痛みを堪えながら俺は思っていた。
ああ、もう。
いたちごっこだ。
と。
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