Love is blind?



教室を覗いてみた。
何人かのクラスメイトに居場所を尋ねてみたが誰も知らないと首を振られてしまった。
「そうか・・・」
ありがと、と手を上げその場を後にした「遠藤和希」が身に纏っているのはBL学園の制服だ。
理事長モードから学生モードに変身、である。
(やっと一緒に帰れる・・・)
このために今日は早起きして頑張ったのだ。朝、隣で寝ている啓太を起こさないようにベッド
から抜け出し「仕事があるから先に行く」というメモを残してすぐに理事長室へと向かった。
うんざりするような量の書面に目を覆いたくなるのを我慢して昼を取る暇も惜しいぐらいしゃか
りきに働いたのだ。
柔らかなベッドよりも精がつきそうな豪勢な食事よりも、何より今は啓太の笑顔が見たくてた
まらない。和希の歩幅はそれを反映しているのか妙に急いたものとなった。

「おかえり」
そう言って彼は微笑んで自分を迎えてくれるはずだ。
だから真っ先にいるであろう教室に向かったっていうのに、である。
(おかしいな)
「何処にいるんだ?」

疲れてしょぼしょぼする目をぐりぐりと指で押しながら。仕方なく和希は考えられる場所を当た
ってみることにしたのだった。

手芸部室。
「部長、啓太見ませんでしたか?」
「いや、今日は来てない」
「そうですか」

次は道場。
「どうした、遠藤」
彼が口を開こうとした直前。篠宮がタオルで額の汗を拭きながら声を掛けてきた。
「啓太来てませんか」
「伊藤?確かに来たが」
どうしたんだと聞く彼に和希は鼻息荒く迫った。
「どこにいるんですかっ」
唇まで後数センチの距離まで迫られた篠宮はその勢いに少々圧されつつ、淡々と答える。
「先程まで練習を見ていたが、さっき出て行った」
「何処へいったか分かります?」
「さあ、そこまでは・・・」
「そうですか」
ここにいても仕方がないと見切りをつけた和希が挨拶もそこそこにじゃ、と踵を返して駆け出
そうとすると背後から待てと引き留められた。
「これはヒントになるか分からんが・・・そういえば用事を思い出したと呟いていたな」
「用事?」
振り返って訊ねるとああ、と篠宮は大きく頷く。
「早く行かないとなくなっちゃうかも、とも言っていた」
なくなる?
何が?
様々な疑問が頭に浮かぶが、何より本人を探すのが最も早いだろうと考えて。
「ありがとうございました」
頭を下げるのもそこそこに、和希は次の場所へと向かった。

「おう、遠藤やんか!」
テニスコートに向かおうとしていた和希を俊介が呼び止めた。
「どうしたんや、こんなところウロウロして」
「啓太を探してる」
「啓太?」
届け物が入っているらしい肩のリュックをよ、と担ぎなおして俊介はしれっと答える。
「さっきすれ違ったな」
「え?」
「えらい猛スピードで走ってったで。あの方向からすると・・・学生会室か会計室やな」
「サンキュッ!」
何かあるんか?と俊介が聞こうと顔を上げた。だがその頃には既に彼の姿は影も形もなくな
っていたのであった。

あまりに全力疾走したためか、はたまた寄る年波には勝てないということか、肩で息をつく和
希がよろよろとしながら次に立っていたのは「会計室」の扉の前。
「はあっ・・・はぁっ・・・」
どちらか迷っていた彼をここに向かわせたのは廊下で「丹羽と中嶋が教室で喧嘩をしている」
という何とも興味深い話をきいた為である。何もなければそんなシチュエーションを見逃すチャ
ンスはないのだが、今の和希はもう啓太渇望症寸前である。
「絶対ここのはずだ」
漸く上がっていた息が落ち着いてきた。こんなみっともない自分は啓太ならいざ知らず、あの
二人には見せられないなと彼はしゃんと背筋を伸ばし、額に浮かんでいた汗をハンカチで拭
い取った。
ノックをして入ろうとした矢先。ぼそぼそ声がしたので彼は思わず耳を扉に押し当て中の様子
を覗った。

「・・・ね?伊藤くん」
「・・・はい・・・」
「ふふ、そんなに恥ずかしがらないでも大丈夫ですよ。ここには僕達しかいませんから」

なぬ?
和希の目が大きく見開かれた。
予想通り啓太はここにいる。しかも会話からすると七条と二人っきりだ。

「でも七条さん・・・西園寺さんが・・・」
「郁はまだ当分戻ってきませんよ。だからね、もっと二人で楽しみましょう」
「あ・・・は、はい」

嬉しそうな七条とどこか照れた感じの、でもちょっと嬉しそうな啓太の口ぶりに目が細く徐々に
釣りあがっていくのが自分でも分かった。

「伊藤くんはこれが欲しいんでしょう?たっぷりかけてあげますよ・・・」
「あ・・・」
「だから零さず、全部お口で受けて下さいね・・・」
「しちじょうさ・・・んっ・・・んむっ」
「そう・・・とても上手です」

どう受け取っても「あのこと」にしか結びつかない和希の顔は既に般若のような恐ろしい形相
に変貌している。

「俺もう・・・」
「駄目ですよ。まだ足りないでしょう?君のここはそうは言ってません」
「でもっ・・・」

(おのれ七条!)

我慢の臨界点を軽く突破しスペインの闘牛よろしく、突撃あるのみ状態だった彼はジャケット
を脱ぎ捨て扉を蹴破った。
「そこまでーっ!!!」
「おや」
「あ・・・」

チュン。
窓の外で鳥が鳴いた。

「和希だっ!おかえりっ!」
「ちょうど良い時にきました。郁から苺をたくさん貰いましてね。食べきれないので伊藤くんを
呼んだんです。練乳もありますよ、遠藤くんもどうですか?」
むぐむぐと口いっぱい頬張っている啓太とフォークで苺を彼の口に運んでいる七条が同時に彼
を見上げ微笑む。
「いちご・・・です、か・・・」
ははは、と脱力したのかそこにへたり込む和希を口の周りの果汁を手で拭いながら啓太が不
不思議そうに見下ろした。
「・・・和希、どうしたの?」
「きっと、変なことでも考えていたんですよ」
気にしないで食べてください、と七条はあーんとフォークを差し出した。

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